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マウンドに集まれる回数がプロ野球より少ないのはなぜ?

審判委員と学ぶ高校野球特別規則①

守備側のチームがピンチを迎えてタイムをとると、マウンドに内野手が集まり、ベンチから伝令の選手が飛び出して来ます。このようにタイムを取ってマウンドに集まれる回数は、高校野球はプロ野球より少ないというのをご存じですか?この違いはどこからきているのでしょう。

タイムでマウンドに集まる守備側の選手たち。審判委員は距離をとって待つ=
2024年8月の第106回全国高校野球選手権大会で(朝日新聞社提供)

日本の野球のルールは「公認野球規則」で定められています。高校野球では、この公認野球規則を基本としながら、別に「高校野球特別規則」を定めています。タイムの回数制限や継続試合、タイブレーク制、臨時代走などはこの特別規則にのっとったものです。

では、高校野球特別規則とはどのようなもので、どう運用されているのか――。

春、夏の甲子園での経験が豊富な審判委員に話を聞きながら、高校野球のルールへの理解を深めていきましょう。最初のテーマは「タイムの制限」です。

「試合をスムーズに」タイムは3回まで

高校野球特別規則は、日本高校野球連盟、各都道府県高校野球連盟が主催する大会や、国民スポーツ大会の「高校野球」の競技などで適用される特別規則です。高校野球の公式戦は公認野球規則とアマチュア野球内規、そして、この高校野球特別規則によって試合が行われます。

毎年、必要に応じて改定が行われ、2025年版は「1.高校野球で使用できるバット」から「28.投手の投球制限」までの28項目からなっています。このうち、タイムの回数については、「15.タイムの制限」で詳細に定められています。

15.タイムの制限(抜粋)

試合の進行をスムーズにするために、下記の規則を採用する。

(2)
守備側の伝令によるタイムの制限
  • ①監督の指示を伝える伝令は、マウンドにいける回数を1試合に3回までとする。
  • ②延長回(タイブレーク)に入った場合は、それ以前の回数に関係なく、1イニングにつき1回だけマウンドに行くことが許される。
(3)
攻撃側の伝令によるタイムの制限
  • ①打者および走者に対する伝令は、1試合につき3回までとする。
  • ②延長回(タイブレーク)に入った場合は、それ以前の回数に関係なく、1イニングにつき1回だけ伝令を使うことが許される。

つまり、高校野球では、攻撃、守備ともに伝令のためのタイムは3回ずつと決められています。

審判側とチーム側、指差しで回数を確認

伝令のためのタイムは1回につき30秒ということも、高校野球特別規則で決められています。試合中にタイムの要求があり、審判委員が「タイム」を宣告したところから、計測は始まります。

甲子園球場ではバックネット裏にいる控え審判委員が計ります。グラウンド上の審判は、役割を分担して対応します。30秒たったという合図を受けるのは、二塁塁審です。バックネット裏からの合図を受けると「そろそろ時間だよ」と選手に声をかけ、選手たちは散ります。

一方で球審はまず、タイムをとったチームのベンチ側の塁審に「1回目ですね」という指差し確認を行います。確認が取れれば、ベンチに向けて「1回目」と指差し合図を送ります。監督らからは、帽子を触るなどのアンサーをもらいます。「チーム側と審判側、お互いの認識にズレが生じないよう、しっかりと確認します」。

審判委員が特に心がけているのが、30秒間を選手が存分に使えるようにすることです。球審は本塁付近にとどまり、マウンドに集まっている選手たちを見守っています。「彼らに与えられた貴重な時間。選手がプレッシャーに感じないよう、見守ることを意識しています」と話します。

回数も時間も限られるなか、伝令の選手が果たす役割は重要です。
「監督から多くの指示を受けても、すべてを話す時間はないはず。伝達すべき内容の優先順位をよく考えているのでしょう」

「笑顔を振りまいたり肩をたたいたり、仲間を鼓舞するのがうまい、声が大きいなど、自分の特徴を生かし工夫している様子はよく伝わってきます」と、一番近くで接している審判委員たちは感じています。

野球界全体が時間短縮の流れ

高校野球特別規則でタイムの回数を「攻守ともに3回まで」に制限したのは1997年のことです。翌98年にAAAアジア野球選手権大会が日本で開催されるのを控えていたためで、当時の牧野直隆・日本高野連会長はその理由を以下のように述べました。

「タイムの回数制限は、スピードアップルールとして以前から国際試合では実施されていたもので、監督がベンチから出られない制限を実施している我が国の高校野球では、この点を考慮して見送ってきました。しかし、規則の制約がないからといって極端にタイムをとるチームが目立ち、都道府県大会でもこの傾向が見られ、スムーズな試合進行を促す意味から国際ルールに準拠することにしました」

日本で行われた第3回アジアAAA野球選手権の日本―中国戦=1998年9月14日、阪神甲子園球場で(朝日新聞社提供)

公認野球規則は、メジャーリーグ(MLB)の規則書である「Official Baseball Rules(OBR)」をもとに、日本の野球に適した規則書として編纂されています。国際試合はOBRと、オリンピックの競技運営などを行う国際競技連盟である世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の特別大会規定を併用して実施されてきました。

高校野球では、約30年前に国際試合の規定に合わせて、タイムの回数制限を導入しました。1日に複数試合を行うことが多い高校野球では、試合時間の短縮はとても重要です。高校野球特別規則では、タイムの制限について、「試合の進行をスムーズにするため」とはっきりとその目的を明示しています。

一方、公認野球規則に「マウンドに行ける回数の制限」の項目が登場するのは2019年です。「5.10(m)」で、「投手交代を伴わないでマウンドに行くことは、9イニングにつき1チームあたり6回に限られる」と新たに規定されました。翌20年にはそれが「5回」となり、25年に新たに改正があり、「4回」に減りました。

かつて、プロ野球と高校野球ではタイムを取ってマウンドに集まれる回数に3回の差がありましたが、今季からはその差は1回になります。また社会人野球、大学野球でも、現在ではマウンドに行ける回数は3回までとなっています。このことからも分かるように、野球界全体としてスピードアップを図ろうという流れにあります。

高校野球では昨年、捕手や内野手が、一人で投手へ声を掛けに行くことについても、制限を設けました。これは、伝令によるタイムの回数にはカウントされず、以前は回数の制限はありませんでした。しかし、24年からは高校野球特別規則で、「1イニングにつき1回1人だけ」と規定しています。

いち早く、試合時間の短縮に取り組んできた高校野球は、これからもスムーズな試合進行を目指していきます。

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