基準変更で不要になったバットを回収
高校野球で使える金属製バットの基準を2024年春に変更したことに伴い、不要になったバットを回収してリサイクルする事業を行いました。回収されたバットはアルミ製品に生まれ変わり、不燃ごみの減少につながっています。2024年で10回目となった日本高校野球連盟の金属製バットのリサイクル運動について紹介します。
使えなくなった金属製バットをリサイクルに提供する長崎県の加盟校部員溶解され、アルミニウムとして再利用
金属製バットのリサイクルは全日本野球バット工業会と協力し、1992年に始まりました。以後3、4年おきのペースで実施しており、過去10回で計15万4425本が回収されました。
バットの基準変更に併せて実施した2024年は2年ぶりと間隔が短くなりました。各校で使わなくなった金属製バットを都道府県連盟が収集し、指定の金属メーカーに送付しました。回収された1万1428本の金属製バットは、再処理工場で溶解された後、原材料であるアルミニウムに戻されました。
溶解炉に入れられた金属製バットが溶解し、溶解炉から型に流し込まれ、あらたなアルミ製品となるただ、現状では再び金属製バットに戻るわけではありません。一口にアルミニウムといっても、ビールなどの缶は手でつぶせるほど柔らかく加工されているのに対し、金属製バットには投手が投げる速度150km/h台の硬球をはじき返すほどの高強度が求められます。
「アルミを溶解するには砂が大敵で、バットに巻かれたグリップテープなども不純物になります。不純物を取り除かないと高強度にはならず、金属製バットに戻すのは難しい」と全日本野球バット工業会 金属部会の佐藤一孝部会長(UACJ金属加工)は説明します。
そのため、金属製バットは溶解後、成分を調整して強度の違うアルミとなり、脚立やアルミサッシの窓枠など、他の製品に生まれ変わっています。
山形県では、全校がそろう夏の選手権大会の開会式に、不要になった金属製バットを加盟校に持ってきてもらいました。山形県高野連の大場卓也理事長は「何年かに一度はこういう機会を設けてもらえると非常にありがたい。回収して資源として再利用する。生徒にもその意義を感じ取ってほしい」と話します。
かつては燃えないゴミとして処分
金属製バットは木製に比べて耐久性があり、部員たちの経済的な負担を軽減しています。しかし、金属製バットにも寿命はあり、使用回数に比例して金属が疲労し、ひび割れや表面のしわ、へこみなどの変化が現れてきます。変形などして使用できなくなった場合、かつては燃えないゴミとして捨てられるのが一般的でした。これらをできるだけ再利用できないかと考えたのがリサイクル事業の始まりでした。
課題となったのは回収と輸送でした。できるだけ1カ所に集めたうえで、それらを再生業者までどうやって運ぶか。協議を重ねたうえ、回収については、選手権の地方大会の開会式や抽選会などに加盟校に持参してもらうこととしました。輸送については、費用をリサイクルするバットの販売費用を充て、不足分はバット工業会が負担することとなりました。搬送はヤマト運輸が梱包の必要のないラック積みで全国各地の拠点と連携して引き受けてくれました。都道府県連盟の協力を得て、1992年7月に初めて、リサイクルを実施し、全国の1300校の2万1000本の使用済み金属製バットが再利用されました。
「廃棄物」か「有価物」か
その後も定期的に行っていましたが、一度は事業が行き詰りかけたこともありました。
2002年、使用済みの金属製バットは産業廃棄物処理法による「廃棄物」にあたるため、廃棄物を搬送する許可車両でなければ輸送できないという指摘が環境省から入りました。それに従えば、全国各地ごとに産廃輸送業者を探さなければならなくなり、都道府県連盟の負担が大きくなることから、事業の継続が難しくなりました。
日本高野連では、使用済み金属製バットは再利用される「有価物」と認識していました。また、使えなくなった金属製バットを不燃物のゴミとして処理するのではなく、資源として再利用することは環境学習の一環にもなることなどを訴えました。
最終的にこの訴えが届き、最終的に当時の環境大臣から「再利用される金属バットは、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物に該当するため、産業廃棄物処理業の許可を得る必要はありません」という文書が交付されました。この結果、それまで通り大手業者に一括して輸送を依頼することができ、リサイクル活動の継続が可能になりました。
リサイクルされる金属製バット「再び金属製バットに戻したい」
高校野球に金属製バットが導入されたのは1974年です。導入3年目の1977年に高知商野球部に入学した日本高野連技術振興委員会の正木陽委員長は「初期の金属製バットは強度が安定せずに打つとへこんだりして、あまり打球が飛ばなかった記憶があります」と話します。使い古して糸がほつれてきたボールでも、下級生が赤い糸で縫うなどして練習用として繰り返し使っていた時代です。さすがに変形したりした金属製バットは使いようがなく、たまったらまとめて不燃ゴミとして廃棄するしかなかったそうです。正木さんは「バットは消耗品で、練習で使っていたら、いずれ不要になります。それを再利用に回せるのは非常に良いこと」とリサイクル事業を評価しています。
金属製バットを使うのは高校、スポーツ少年団のチームなどで、プロや社会人、大学は木製バットを使用しています。全日本野球バット工業会金属部会の佐藤部会長は「回収した金属製バットをリサイクルして再び金属製バットに戻すことができたらと考えています。回収する際にできるだけきれいに砂を落として、グリップテープを外して回収してもらえるだけでもリサイクル性が随分違う」と話します。いずれは、使い古した金属製バットがリサイクルバット材使用として店頭に並び、再び選手たちが使う日が来るかもしれません。