お知らせ

200年構想

普及活動の先進事例の報告会を開催

「つながり」を生み出すために

普及・振興活動の先進事例が紹介された「高校野球200年構想ミーティング~普及・振興実践報告会」

「高校野球200年構想ミーティング~普及・振興実践報告会」を2025年8月8日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場近くの甲子園プラスで開き、島根、和歌山両県連盟の関係者が普及、振興活動について報告しました。

高校野球200年構想では、部員数が1000人を下回っている(2023年度)鳥取、徳島、高知3県での普及・振興活動を支援するため、3県を対象とした「3カ年重点支援事業」を2024年度から実施しています。3県をはじめ、全国の都道府県連盟の参考となるよう、先進的に活動している島根、和歌山両県の取り組みを紹介してもらいました。両県の報告に共通したのは、「つながり」を生み出すことの重要性で、参加した都道府県高野連の関係者は、メモを取りながら熱心に耳を傾け、意見交換しました。

フェスタと「1校・1園活動」――島根

島根県の山﨑慎司専務理事は2017年からの普及活動について報告しました。同県では、2016年に初めて連合チームが公式戦に出場したことをきっかけに、翌年、普及委員会を発足させました。委員会には県内3地区から現役監督1名と役員がそれぞれ参加。同年、松江市軟式野球連盟(学童部)との共催で、未就学児から小学校3年までを対象とした松江市野球フェスティバルを開催するとともに、加盟校が小学生、保育園を訪問する「1校・1園の普及活動」をスタートさせました。

以後、「フェスタ」で得た学びを「1校・1園活動」に落とし込みながら、この両輪で普及活動を展開していきました。

「1校・1園活動」などを紹介する島根県高野連の山﨑慎司専務理事
工夫をこらし、大会への来場につなげ

フェスタの開催ではスポーツ少年団にも協力をあおぎ、子どもたちがブースを回り終えた最後にスポーツ少年団のチラシを必ず受け取るようにするなど、加入につなげていく工夫をこらしました。子ども2、3人に高校生1人がつき、島根大会の特別入場券になる手書きメッセージカードをプレゼントして、案内役のお兄さん、お姉さんの試合を応援しに来てもらうよう呼びかけました。2023年の出雲こども野球フェスタに参加した160人のうち、延べ40人が特別入場券を使って第106回選手権島根大会に来場しました。この数字は、目に見えにくい「普及」活動の成果を示す一つの指標にもなっています。

「1校・1園活動」については、実施マニュアルをもとに、アポイントを取る際の注意点や、子どもとの距離の縮め方など具体的なコツを紹介。打ち合わせから生徒も参加することが、生徒らの成長にもつながるとしていました。

オンラインで参加した出雲工の石飛孝汰主将は「子どもの目線で考えることは難しかったけど、『楽しかった』と言ってくれることがやりがいと感じる。そのために何をやるのか考えてやっていた」と、上田里衣奈マネージャーも「喜んでくれるとやってよかったと思いました」と話し、それぞれが抱えた不安などは、子どもたちの笑顔で解消されたようでした。

山﨑専務理事は、「島根にはプロ野球も大学の大きなリーグもなく、高校野球が支える意味は大きい。子どもたちにとって、高校生1人1人がヒーロー」と高校生が普及活動に参加する意義を訴えました。

「監督会」中心に振興活動を展開――和歌山

和歌山県の髙津亮専務理事は、「監督部会」を軸に行っている振興活動について紹介しました。

報告の冒頭、和歌山県内の高校野球人口は9年間で555人減少している一方、県外の高校に進学する中学生も増えている実情を紹介。1998年に監督部会を発足させ、現役の監督らが中心となり、オフシーズンに普及・振興を目的とした「ちびっこやきゅうチャレンジ」などの事業を行っていることが報告されました。昨年からは和歌山大会の試合直後にも開催するなど、意欲的な取り組みが続いています。

最近では、中学校体育連盟なども巻き込んで、世代間のつながりを重視するようになってきています。ちびっこやきゅうチャレンジや少年野球教室、硬式球体験などを1会場で行う「中紀地区野球フェスティバル」では、未就学児や小学生だけでなく、中学生も対象としています。育ち盛りの小学生の保護者対象、中学生対象に分けて実施した栄養講座も好評でとても盛り上がりました。

「監督会」が軸となった普及・振興活動を紹介する和歌山県高野連の髙津亮専務理事
部員減で監督が当事者意識持つように

同県で普及振興活動が軌道に乗ってきた理由について髙津専務理事は、「極端な部員数減少に当事者意識を持って臨んでいる監督が多く、8年が経過して役割分担が明確化してきた。誰をリーダーとするのが極めて大切」と説明しました。

一方で、課題として、①取り組みに参加した子どもたちが実際に野球を始めるきっかけになっているのか②イベントが多すぎて加盟校指導者の休みが確保できない③県内で野球を続けてもらうためにはどういった取り組みが必要か――という3点を挙げました。

野球の楽しさを思い出し

続いて、活動に参加した市和歌山の川邉謙信主将と中村琉太郎選手が登壇し、川邉主将は「ちびっこやきゅうチャレンジは練習のきつさで忘れがちな野球の楽しさを思い出させてくれるのが大きい」と、中村選手は「まずは子どもたちに楽しんでもらうことを気にかけている」などと普及活動に携わった感想などを披露しました。

普及・振興活動に参加した感想を話す市和歌山の川邉謙信主将(左)と中村琉太郎選手
「いいアイデアをもらえた」

この後、重点支援事業の対象の3県の理事長らが現状と感想などを話しました。

鳥取県の田村嘉庸理事長は、同県ではこれまで、「1校・1園活動」を24校のうち15校が実施したとし、「普及を目的とした野球フェスタも開いていますが、今日の報告を聞くと、ただ開くだけでなく、スポ少、学童野球加入にいかにつなげていくかを考えないと。イベント開催を主導する強力な指導部も必要」と話しました。

今年10月に日本野球機構(NPB)と協働して「ちびっ子ベースボールフェスティバル」を開催予定で、手伝ってくれる球児が、さまざまなノウハウを学んだうえ、「1校・1園活動」参加の加盟校が20校以上となるのを当面の目標としています。

報告を聞く「3カ年重点支援事業」の対象となっている鳥取県、徳島県、高知県の理事長

徳島県ではこのオフシーズンに2度目の野球フェスタを開きましたが、たまたま降った雪で参加できない子どもも多かったといい、森河丈志理事長は今後も未就学児や小学校低学年へのアプローチの機会を増やしていきたいとしていました。また、これまで6校の加盟校が運営を手伝いましたが、さらに多くの学校の参加を促したいとしており、「子どもたちにとって憧れの存在になりうる高校生と子どもたちが野球を通じて触れ合う機会の創出を進めていきたい。大会時にフェスタを開くなどいいアイデアをいただいた」と話しました。

高知県では、支援事業が始まった昨年から高校生も交えた改革プロジェクトなどさまざまな事業を始めています。12月には県営春野球場を使って2回目のちびっこフェスティバルを開き、球児らにも積極的に参加してもらう予定で、酒井粋理事長は「誰をリーダーにして普及を進めていくかが今後の課題」と話しました。

全国的な広がりを期待

最後に、寶馨・日本高野連会長があいさつ。「プロ野球と高野連は先月、『キッズファーストアクション』として、未就学児への野球の普及振興事業を連携、協力して実施していくことを発表しました。また、プロ野球とアマ野球で組織する日本野球協議会は部活動の形が変わる中学生応援プロジェクトを立ち上げています。これらの取り組みが野球の普及振興のみならず、幼児から高校生まで健全な成長につながるよう、重点支援事業の対象となる3県にとどまらず、全国に広まってほしいと思います」と期待を込めていました。

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