2024年7月2日
努力を続ければ必ず得るものがある
2023年度 第68回全国高校軟式野球選手権大会優勝【中京】
主将・荒井 優真さん
捕手・名越 龍海さん
主将・荒井 優真さん(右) 捕手・名越 龍海さん(左)
日本高校野球連盟に登録する軟式部員数は約7600人で、約400校が加盟しています。軟式の高校球児たちが頂点を目指す全国高校軟式野球選手権大会は毎年8月下旬、兵庫県の明石トーカロ、姫路ウインク両球場で開かれます。
昨年の第68回大会では、中京(東海・岐阜)が、天理(近畿・奈良)を破って2年連続で単独最多の12回目の優勝を飾りました。その優勝チームをまとめた当時の主将、荒井優真さん(現関西学院大1年)と、捕手を務めた名越龍海さん(現同志社大1年)に、軟式野球の魅力や高校野球を通じて学んだことなどを聞きました。
優勝でようやく重圧から解放された
第68回全国高校軟式野球選手権大会 優勝の瞬間(毎日新聞社提供)
――優勝した瞬間に感じたことや、優勝できた要因などを改めて今、振り返ってもらえますか。
(荒井) 新チームになってメンバーがほぼ入れ替わり、秋に県内のチームに敗れるなどしたので、周囲からは自分たちの世代は弱くて全国大会出場すら危ういと言われてきました。日本一を目標にしてきましたが、重圧は強くて、優勝できてようやく解放された気がしました。
(名越) 僕らの代は投手力が弱くて、これまでの中京のチームカラー、投手を中心とした守りのチームではなかったので、ある程度の失点は覚悟しなくてはいけませんでした。点を取られたら取り返せるよう、バッティングはかなり練習して臨みました。大会を通じて、それを発揮できたのでは、と思います。
――印象に残っている試合は。
(名越) 初戦の井原(東中国・岡山)戦です。僕たち自身にとっては初めての全国の舞台。一回にいきなり先制され、苦しい試合でした。それに、攻撃の時、相手選手と交錯して足を少し痛めて、次の試合も出られるか不安になりました。何とか最後まで出られましたが…。
中京 主将・荒井 優真さん
――中京は10年前の第59回大会の準決勝で、4日間にわたる延長五十回の末に崇徳(西中国・広島)に勝ち、決勝でも三浦学苑(南関東・神奈川)を破って優勝しています。
(荒井) 当時はニュースで見ました。入学後、その時の主将だった後藤敦也コーチに話を聞きました。僕らとは気持ちの持ちようが違っていたと感じました。考え方、練習への取り組み方もとても厳しかったと聞き、それぐらいでないと、あんな緊迫した状態を続けられないと思いました。
県内の高校で日本一を目指す
――高校で軟式野球を選んだ理由は。
(荒井) 小学校4年の時に野球を始めました。甲子園へ高校野球を見に行ったこともあったので、高校では甲子園を目指そうと漠然と考えていました。でも、軟式なら県内の高校で日本一を目指せると聞き、中京の軟式野球部を選びました。
(名越)僕も小4から野球を始めました。学校のある瑞浪市内に住んでいて、地元の高校に通いながら日本一を目指せることにとても魅力を感じました。
――硬式と違う軟式の魅力は。
(荒井) 点が入りにくい分、エラーやミスが絡むと力が上のチームでも負けてしまいます。いかに失点を防いで、1点を取りにいくか。練習の最後はだいたい実戦練習でした。1死三塁の場面を想定して、走者を還す打撃をするのですが、一人1日1打席だけ。繰り返しません。失敗してもそうそうチャンスは回ってこないからと、本番さながらに集中してやっていました。
(名越) 1点の重みは平中亮太監督からいつも言われていました。一つのチャンスをどれだけ生かせるか、どれだけ守れるかと。硬式みたいにホームランや長打は望めないので、走者二塁ではなかなか得点に結びつきません。いかに1死三塁の場面を作るかを考えて打席に入ります。一塁走者をスタートさせて「たたき」と呼ばれるたたきつけるバッティングをするなど、工夫する面白さは軟式ならではだと思います。
中京 捕手・名越 龍海さん
明石は軟式の「聖地」
――軟式の舞台は「明石」。硬式の甲子園のような思い入れはありましたか。
(荒井) 明石は軟式の聖地です。練習では常に皆で「明石」「日本一」を合言葉に取り組んでいました。
第68回全国高校軟式野球選手権大会 優勝旗授与(毎日新聞社提供)
――高校野球で学んだこと、現在に生きていることは。
(名越) あいさつなど立ち居振る舞いですね。大学に進んだ今も、それが身についていると思います。親には感謝していますし、一人暮らしの部屋の掃除などもちゃんとしています。
(荒井) 人間性や他者への気遣いなど基本を学びました。毎日のように練習に取り組んで、忍耐力もつきました。僕は高山市の出身で、高校から寮生活をしていたのですが、どれだけ親に支えられていたかよく分かりました。これからも親に頑張っている姿を見せたいと思います。
――当時のチームで、今も野球を続けているのは。
(荒井) 9人中3人ですね。僕は大学で準硬式野球をしています。あと2人は準硬式と、会社の軟式チームに。高校最後の大会で優勝できたとはいえ、もっとできたことがあるのではないかと思ったし、準硬式でも日本一を目指したいです。また、大学準硬式の東西対抗日本一決定戦が甲子園球場で行われるので。甲子園のグラウンドに僕も一度は立ってみたいです。
(名越) 僕は高校で日本一を達成できたので、野球は一区切りをつけました。優勝できていなかったら続けていたかもしれないけど。
――準硬式のボールは硬式と芯は同じで、表面はゴムで覆われていますね。プレーしてみて軟式との違いはありますか。
(荒井) 内野守備ではボールの飛び方が違うので、少し戸惑いました。バッティングもボールが硬い分、打球が上がらないので、スイングをいろいろ試しました。逆に硬式をやってきたメンバーは、準硬式のボールは投げる感覚が違うし、硬式よりバウンドがはねると言っています。
――大学生活には慣れましたか。
(荒井) 準硬式の練習は週6回ありますが、授業の関係で僕は5回くらい参加しています。また、甲子園球場のグッズなどを売っているショップで、月に7、8回アルバイトをしているので、バイトのある日は授業が終わったら、すぐに球場へ向かいます。高校野球開催中もぜひ甲子園でバイトをしたいと思っています。
(名越) 僕は、今は学業中心に生活しています。もう少ししたらアルバイトをしてみたいと考えています。
――高校の仲間で集まることはありますか。
(名越) 関西の大学には僕たち以外にも2人が進みました。4人で会って、高校時代の話をすることはあります。今年の夏、後輩たちが全国大会に出ることになったら、明石のスタンドに当時のメンバー全員で集まり、応援したいです。
諦めずに壁を乗り越えられるか
――今、高校で野球をしている球児たちに伝えたいことは。
(荒井) やっている間は連日同じような練習の繰り返しで面白くないかもしれません。それに、目指してきたような結果が出るとは限らない。でも、辛抱強く努力を続ける過程がとても大切だと思う。必ず得るものがあると思います。仲間とともに、一日を無駄にせず頑張ってほしいです。
(名越) 3年間、つらい思いをすることもあるけど、地道に取り組んでいくことで身につくものもあるはず。諦めないで壁を乗り越えていけるかどうか。どのスポーツも同じだと思います。
第68回全国高校軟式野球選手権大会 中京集合写真(毎日新聞社提供)