インタビュー

2025年8月17日

「小倉という人間を分かってもらえるか」
が連覇の鍵

U-18日本代表 小倉全由監督

今年9月、沖縄でU-18W杯開催

U-18日本代表 小倉全由監督

第32回U-18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)が9月、沖縄・那覇で開催されます。2023年の前回大会(台湾)で悲願の初優勝を遂げた高校日本代表には連覇がかかります。代表を率いる小倉全由(まさよし)監督=東京・日大三元監督=に、チームづくりのポイントや連覇への展望を聞きました。

世界で勝つためのサポート体制に変化

U-18日本代表の指揮を執る小倉監督=2024年8月(朝日新聞社提供)

――高校日本代表の監督として世界一へ挑戦するのは、12年大会(韓国、当時はU-18世界選手権大会)以来です。12年は岩手・花巻東の大谷翔平(ドジャース)、大阪桐蔭の藤浪普太郎(DeNA)両選手らを擁しながら、木製バットへの適応にも苦しみ6位でした。

当時は国際大会に不慣れでした。例えば、タイムでも選手を伝令で送り出すのではなくて、自分がマウンドに行くんですが、最初は勝手が分からず。日本の高校野球、甲子園の雰囲気しか知らなかったわけですから。対戦チームのマナーの悪さに驚かされたり、ラフプレーに遭ったりと戸惑うことが多かったです。

――W杯初優勝を果たした馬淵史郎監督=高知・明徳義塾監督=の後を受けて2度目の代表監督に就き、昨年は台湾でのU-18アジア選手権に出場しました。代表を取り巻く環境は変化しましたか。

変わりました。19年から春に代表候補を集めた合宿が行われるようになった。この春も選抜大会に出られていない選手も推薦してもらって、技術だけでなく性格を含めて多くの選手を直接、見ることができました。実際の選手選考でも、自分が現役の高校の監督ではないこともありますが、自分で確かめられることが多い。世界で勝とうという強い気持ちがサポート体制からも伝わってきます。その成果が一昨年の世界一だったのだと思います。

U-18日本代表候補選手強化合宿で選手らに話をする小倉監督=2025年4月

決勝を前に選手が変わった昨年

――今大会には連覇の期待がかかります。準優勝に終わった昨年のアジア選手権の経験も踏まえ、ポイントを教えてください。

ははは、プレッシャーをかけないでください。もちろん連覇を狙いますが、まずは集まった選手に、この小倉という人間を分かってもらえるか、自分のカラーを出せるかが大事だと思っています。自分をさらけ出して、選手と人と人との関係を築いて、チームを束にして一つの方向に向かわせることができるか、だと。

――どういうことでしょう。

昨年のアジア選手権では決勝の台湾戦の前になって、選手が「あ、変わったな」と思ったんです。最近は高校野球でもフライ革命とか言われて、それまではバットが下から出てくるようなスイングばかりが目立っていました。それが2次リーグ(L)の2試合で計6安打、1得点とさっぱり打てず、「これじゃダメだ」と痛感したのだと思います。決勝の試合前練習のティー打撃のとき、それまではネットの上の方ばかりに向かって打っていたのが、低い方へ打ち返すスイングになっていた。決勝は1ー6で負けましたが、10本も安打が出たんです。

――決勝になってチームが一つの方向を向いた。

それまでも選手には速い球に対しては、ひっぱたくようなイメージでバットを出すよう声はかけていたんです。ただ、代表に選ばれるような選手なので、それぞれ自分を持っているし、代表監督として指導できる期間も長くはない。だから、あんまり言ってもという遠慮みたいなものがあったんです。

決勝までは進んだものの、あまりに打てず、小倉が言っていたことを思い出してくれたのだと思うのですが、自分としてはもっと早い時期から、自分が「やっぱりこうだろ」と思うことをもっと強く伝えておくべきだった。すごくいい勉強をさせてもらいました。

U-18アジア選手権で選手とタッチする小倉監督=2024年9月

――小倉監督は日大三では部員と風呂に入ったり、発熱した部員に夜中、着替えを届けたりと、選手との距離が近い印象があります。代表でもそんな関係を築くということですか。

確かに期間は短いですが、代表チームだからといって変に自分のやり方を変えたり、遠慮したりせず、小倉ってこういう人間なんだよと分かってもらうところから始めなければと思っています。ただ、型にはめたり、押さえつけたりするのは好きじゃない。自分はこう思うよ、こうやってみたらどうだと本音をぶつけながら、「勝ちたいよな」「よし、一緒に勝とうよ」と。短い期間だからこそ、指導者がいい雰囲気をつくって、引っ張っていかなければと思っています。

勝つためならバントも

U-18アジア選手権で、マウンドで選手に話をする小倉監督=2024年9月

――戦術面も聞かせてください。11年の夏の甲子園で日大三は6試合で61得点を挙げて優勝を果たすなど小倉監督には強打のイメージがあります。W杯でも同じですか。

三高時代は、理想は10ー0での勝利と言ってきましたが、国際大会ではそうはいかない。どこもいい投手をそろえてくるし、しかも7イニングです。日本の選手は木製バットに近いと言われる新基準の金属製バットでの打撃にも対応してきていますが、国・地域を代表する好投手がどんどん投げてくるわけで、そう簡単に点は取れないでしょう。

昨年のアジア選手権2次Lで台湾から決勝点を奪ったのはスクイズでしたし、勝つためならバントもします。

――今大会は追われる立場になります。どんな心構えで臨みますか。

アジアであれば台湾、韓国がライバルになりますが、W杯は強豪国も増える。1次Lから一つも気を緩めることはできません。そういうレベルの戦いなのでやはり大量点は望めない。投手と守りを中心にいかに点を与えないか。まずはそこからだと思っています。

――選手選考はどのような方針で臨みますか。

20人のうち半数近くは投手になると思います。ただ、投げない時は指名打者として出場できるような打力がある投手や、一昨年の優勝メンバーの明徳義塾・寺地(隆成)選手(ロッテ)のように捕手と内野手を兼ねられるとか、いわゆる「二刀流」の選手は非常に大事になるのではと思っています。

自分をさらけ出せば関係は築ける

第93回選手権大会で2度目の全国制覇を果たした日大三時代の小倉監督=2011年8月(朝日新聞社提供)

――日大三の監督を退いて2年余りが経ちます。最近の高校生気質をどう感じますか。

やっぱりおとなしいですよね、全体的に。以前はもっとやんちゃな高校生も多かったけど、いまは世間がそういうことを許してくれないようなところがあります。自転車の乗り方ひとつで「けしからん」とお叱りがくることも。合宿でも、おとなしさは感じましたが、こっちが自分をさらけ出せば、人間関係、信頼関係は築けると思っています。年齢は離れていても朝の散歩や体操は一緒にするし、ウォーミングアップにも入っていきますよ。

――どのような代表チームになるのか楽しみです。最後に一つ。高校野球は教育の一環でもあります。あくまで優勝を求めるのか、それとも代表チームとはいえ、それぞれの高校生がこのチームでやれてよかったなあという充足感を求めるのか、どちらでしょうか。

それは二つともです。優勝とこのチームに選ばれてよかったなあという、その両方を求めないといけないですよね。三高でもずっと甲子園出場と三高に来てよかったなあという、その二つを自分は与えなきゃいけないと思ってやってきましたから。

小倉 全由(おぐら・まさよし)
1957年生まれ。千葉県出身。
日大三では控えの内野手。日大を経て、81年に東京・関東第一の監督に就任。87年春の選抜で準優勝。
97年に日大三の監督に就き、2001年と11年夏に全国制覇。社会科教諭。
23年3月に定年で監督を退き、同年12月に2度目となる高校日本代表の監督に就任した。

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