インタビュー

2024年9月30日

2024年夏の各大会を振り返って

日本高野連・寶馨会長

寶馨会長

歴史の重みを感じた大会

――第106回全国高校野球選手権大会が終わりました。

今年は甲子園球場が誕生して100年という節目の年で、改めて歴史の重みを感じる大会でした。選手、観客の皆さんもそういった感慨を持たれたのではないでしょうか。1915年の第1回の地方大会から出場を続ける大社など、歴史のある出場校の大応援団も印象的でした。

今大会は1点差ゲームが48試合のうち19試合と4割近くもあり、終盤までもつれる試合も多くありました。そして、タイブレークとなった試合が6試合もあり、先攻のチームが4勝しました。タイブレークは後攻が有利というイメージを持っていましたが、戦い方次第だということを実感しました。

機動力がさらに重要に

――今年から導入された新基準バットの影響をどう感じましたか。

春のセンバツでも、大会通算の本塁打数はランニング本塁打1本を含めてわずか3本でしたが、夏の選手権も昨年の23本から7本に減少しました。ロースコアの試合が増え、バントや機動力がこれまで以上に重視されたように思います。投手も本格派より、うまくバットの芯を外す技巧派の活躍が目立ちました。

センバツでは二塁走者をワンヒットで還さないための外野手の前進守備も目立ちましたが、夏は後ろに下がって守っている時もありました。相手をよく研究して、守備位置を変えていたのではないでしょうか。新基準バットに対する適応力を発揮して勝利した試合も散見されました。今後も、いろんな対応がなされていき、新たな戦術も出てくるのではないかと感じています。

2部制を検証し、今後も対策

――暑さへの対策も重要な課題でした。

初日からの3日間は昼の暑い時間を避けて午前中と夕方に試合を行う2部制を導入しました。特に混乱もなく、チームや観客の皆さんの受け取り方も悪くなかったと感じています。今回、実施してみて感じた効果や課題などを検証して、来年以降の対策につなげていかなければなりません。

また、試合中や終了後に足がつるなど選手に熱中症が疑われる症状をみせた選手はのべ56人でした。試合中は37人で、特に各校が初戦を終える第7日までの発生が全体の約6割を占めたのは気になるところです。こちらもできる限り検証して、今後に生かしていきたいと思います。

軟式の長所を生かして

――第69回全国高校軟式野球選手権大会も熱い戦いが繰り広げられました。

台風が心配されましたが、関西を直撃することはなく、日程通り大会を実施できてよかったです。3年連続優勝となった中京の安定した戦いぶりが目立つとともに、東北勢2校がベスト4入りしたことも目を引きました。全国的な地域差がなくなっているのではないでしょうか。

軟式の加盟校は硬式の約10分の1の381校です。今大会は出場16校のうち連続出場は4校でしたが、5年以内の復活が9校で、比較的おなじみの顔触れで占められている印象です。それでも、なかには新たに軟式野球部を作ったという学校もあります。軟式は、グラウンドが狭くてもプレーすることができ、安全で、硬式よりも気軽に始められるという特長があります。このような長所を生かして、より多くの高校生に野球の楽しさを知ってもらえるようつとめていければと思います。

ただ、中学校の部活は地域移行の動きがあります。中学の軟式野球部がその影響をどう受けるのかを心配しています。中学の部活で軟式をプレーし、高校でも軟式を続けたり、硬式を始めたりする選手はたくさんいます。高校以外のカテゴリーの野球関係者とも協力しながら、野球をする場が減らないよう対応していきたいと思います。

得点をもぎとる戦術を磨いて

――U18アジア選手権に団長として同行されました。
準優勝した日本チームの戦いぶりをどうご覧になりましたか。

国際試合は7イニング制なので、先取点をとって試合をリードしながら逃げ切る、ということが重要です。特に、普段は金属バットを用いている選手がほとんどの日本チームにあっては、試合終盤に大逆転をすることは想定しづらいものです。得点をもぎ取るための戦術を磨いていく必要があると感じました。

韓国のように180cmを超える選手を揃える大型チームもありましたが、日本は打率.600で首位打者となった濱本遙大選手(広陵)、山畑真南斗選手(明徳義塾)ら決して大柄ではない選手の活躍が印象に残りました。これらの選手を選考した眼力は素晴らしいものがあったといえましょう。

今回のアジア選手権は7日間で6試合、ワールドカップでは10日間で9試合も行うので、7イニング制であることを今一度認識し、連戦に備えた対策をさらに考えていきたいものです。

海外での野球の普及・発展に貢献を

――国際試合の意義をどのようにお感じになっていますか。

今回、参加予定の8カ国のうち、パキスタンは本国の選手が国交のない台湾への渡航ができず、棄権となりました。海外在住の代表選手5人が台湾に来ていましたが、その中に、青森県立三沢高校3年のジャン・ハスネン選手がいました。試合のない5日目に、ハスネン選手も日本チームに混じって練習する機会を持ちました。日本の高校野球の選手同士が、違う国の代表として交流する機会となり、良い記念になったと思います。

大会終了時には、日本チームが使っていた練習球をフィリピンチームに200個あまり贈呈しました。フィリピンチームには、現地法人で働きながら指導されている片山圭二さんがコーチとして参加しておられました。このように、アジアのチームには、日本人の貢献も少なからずあります。

また、台北日本人学校の子どもたちや保護者との交流もありました。5日目のお昼におにぎりを、6日目のお昼にはうどんを差し入れていただきました。お礼として、日本チームの色紙を3枚差し上げました。

私はこれまで、U-18ベースボールワールドカップに2回(2022年フロリダ、23年台湾)、そして今回のアジア選手権に参加する機会を得ました。海外でも野球ができることは、日本代表チームメンバーにとって大変素晴らしい経験だと実感しています。「侍ジャパン」としての活動は既に10年以上にわたってなされてきています。我が国の野球組織がさらに連携を深め、今後も各年齢層のチームすべてが世界一を目指すとともに、海外での野球の普及・発展にも尽力していけるように願っています。

寶 馨(たから・かおる)
1957年(昭32)2月12日生まれ、滋賀県彦根市出身。
兵庫県立西宮北高-京都大工学部。高校、大学では野球部に所属し投手や捕手としてプレー。
81、82年と2013、14年に京大野球部の監督、05~19年は部長を務めた。
21年12月、第8代日本高野連会長に就任。
京大大学院工学研究科の元教授で同大防災研究所長などを経て
23年4月から国立研究開発法人・防災科学技術研究所理事長。

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