インタビュー

2024年7月12日

人生で一番記憶に残る夏

2023年度 第105回全国高校野球選手権記念大会優勝【慶応】
主将・大村 昊澄さん 
内野手・福井 直睦さん

主将・大村 昊澄さん 内野手・福井 直睦さん 主将・大村 昊澄さん(右) 内野手・福井 直睦さん(左)

2023年夏の第105回全国高校野球選手権記念大会は、決勝で慶応(神奈川)が連覇を目指していた仙台育英(宮城)を8―2で破り、1916(大正5)年の第2回大会以来、107年ぶりとなる2度目目の栄冠を手にしました。そのチームを主将として引っ張った二塁手の大村昊澄(おおむら・そらと)さん、三塁手だった福井直睦(ふくい・なおとき)さんの2人は慶応大に進学し、硬式野球部員としてプレーしています。高校野球で培ったこと、後輩たちに伝えたいこと、将来の目標などを聞きました。

優勝の瞬間 第105回全国高校野球選手権記念大会 優勝の瞬間(朝日新聞社提供)

苦しい時も言い続けた「日本一」

――改めて、優勝を振り返ってみて思い出すことは。

(大村)「日本一」という言葉を、多く口にしました。チームとしてうまくいかない時も、自分自身が苦しんでいる時も、振り絞るように言い続けました。思うだけなら誰にでもできます。実際に口に出すことで、まず自分が行動しなければなりませんし、周りもその気になってくれると信じていました。

――決勝で対戦した仙台育英はセンバツで敗れた相手でした。

(大村) 春は延長タイブレークでサヨナラ負けしてとても悔しかった。同時に仙台育英の強さを実感して、夏に向けて、どうすれば勝てるのかと考えるようになりました。センバツの後、春の神奈川大会で優勝して、なんとなくチームが緩んだような時期もありました。そんな時、気持ちを奮い立たせてくれたのが、仙台育英という目標でした。

(福井) 僕も同じで、いつも仙台育英を意識していました。リスペクト、感謝の気持ちしかありません。

「美点凝視」を心がけ

――優勝できた理由、これをやったから、と思うことはありますか。

(大村) 森林さん(森林貴彦監督)の提案で3年ほど前から、月に一度、部内で勉強会が開かれるようになりました。各界で活躍されている方々や偉人の成功体験などに関する記事を持ち寄って、グループに分かれて感想や意見を言い合います。とくに僕たちの学年は、「美点凝視(びてんぎょうし)」、チームメートの良いところ、長所を探して、相手に伝えて、ほめることを心がけるようにしていました。チーム全体が前向きな気持ちになれたと思います。

――対戦相手のことも、ほめますか。昨夏の準々決勝で沖縄尚学の遊撃手がファインプレーをした時、慶応ベンチで拍手が起きたそうですね。

(福井) ああ、覚えています。チーム全員が自然に拍手しましたし、声も出ていました。

(大村) 当たり前だと思います。相手の良いプレーをたたえなさいということは、部訓にも書かれていることです。

――高校野球では、三つの「F」を大切にしようとよく言われます。

(福井) たしか、(日本高野連の)寶会長が開会式でそのような話をされていたような……

(大村) 「フェアプレー」「ファイト」……

――もう一つは、「フレンドシップ」です。

(大村) 同じく野球をやっている仲間同士、お互いに尊敬しあう気持ちは大事だと思います。

――「美点凝視」ということでいうと、お互いの美点は何でしょう。

(福井) 大村は努力家です。黙々と練習に打ち込んでいる姿をみると、本当に野球が好きなんだなあ、と感心します。まさにキャプテンシーというのか、個性的な選手が多い中でも、人をまとめる力、動かす力をすごく持っている。

(大村) 福井直睦(なおとき)なので、みんな、トキって呼んでいるんですけど。トキは協調性がある。よく自己主張する、我が強い選手がいて、意見が対立するような場面でも、何とか話をまとめる方向に持っていこうとする。キャプテンとして、よく助けられました。穏やかで、怒ったところを見たことがないです。

大学ではフィジカルの差を痛感

――2人は大学野球でも野球を続けていますね。

(大村) 僕たちの学年は40人くらいが慶応大に進学し、14人が選手として野球部に所属しています。すでに公式戦に出場した1年生も数名いて、福井もその一人です。

(福井) レベルの違い、とくにフィジカルの差を痛感しています。例えば、木製バットなのにどうしてあんなに飛ばせるのだろう、とか。技術的なことを含めて、自分に足りないところや課題を見つけて、どうすればレベルアップできるのか、自分で考えて判断することが多くなったように思います。

大学でプレーする大村さん 大学でプレーする大村さん

(大村) 僕は法学部で、福井は商学部というように、みんな、学部は色々で、授業もばらばらです。学業と部活動を両立させていくため、自分に必要な情報は何か、それぞれの学部・学科のどの先輩から話を聞くのがいいのか、考えないといけません。ああしろこうしろと誰かに言われることは少ないので、自分から動くしかない。高校時代に比べると、時間的なゆとりはありますが、手を抜こうと思えば、いくらでも抜けるという面もあるので、気をつけたいと思います。

大学でプレーする福井さん 大学でプレーする福井さん

――練習がない時は、どのように過ごしていますか。

(福井) 僕はギターを弾くのが趣味で、Jポップを中心に弾いています。誰かに聴かせたりとか、発表したりとか、そういうレベルではないですが。

(大村) いや、かなりうまいですよ、彼の弾き語り。高校のころから、部屋に何人か集まると、よく聴かせてくれました。

(福井) あと、絵を描くのも好きです。アニメのキャラクターなどのイラストをデジタルで描いて楽しんでいます。

(大村) 僕は映画を見るのが好きです。最近も(福井さんと)一緒に見に行って、2人とも号泣してしまいました。

社会人で野球を続けたい

――将来の夢や目標、進路について考えていますか。

(大村) 僕は、ずっと前から、社会人野球に興味があります。プレーのレベルはプロ野球並みに高い。ただ、プロ野球のようにリーグ戦ではなくて、都市対抗野球など負けたら終わりのトーナメント戦がほとんど。なので、みなさんの1試合にかける思いがとても強く、集中力がすごい。高校野球のようなひたむきさが感じられ、熱くなります。卒業後も、社会人野球でやれるところまで続け、野球を極めてみたい。みんなから応援されるような人間を目指します。

(福井) 将来、野球にかかわる職業につくのかどうか分かりません。野球はできるところまでできたらとは思っていますが、人生の目標は結婚して幸せな家庭をつくって家族を大切にする、ということだけは決めています。

野球の楽しさを再確認

――高校野球で学んだことは何ですか。

(大村) 夢は諦めなければ叶うということを学びました。僕たちはずっと「日本一」を目指し練習してきました。周りから馬鹿にされたり、無理だろうと言われたりすることもありました。でも決して諦めることはありませんでした。根拠がなくても自信がなくてもただ「日本一」という目標に向かって努力し続けました。その結果、本当に日本一を達成することができました。

(福井) 高校野球で学んだことは、エンジョイベースボールを通して野球というスポーツの楽しさを再確認できたということです。仲間と苦しい練習を共に乗り越え横浜スタジアムや甲子園球場などの大舞台でプレーできたことは自分の人生において一番記憶に残る夏でした。そんな刺激的な夏を過ごせるのは高校生の特権だと今感じています。

第105回全国高校野球選手権大会 優勝旗授与 第105回全国高校野球選手権記念大会 優勝旗授与(朝日新聞社提供)

感謝の気持ちを忘れずに全力で

――高校球児の後輩たちに伝えたいことは。

(大村) 今まできついこと苦しいことがあり、これからもきっとそういった場面が訪れると思います。でも決してそこで諦めるのではなく、当たり前に野球ができているこの環境に感謝して、支えてくれる仲間に感謝して乗り越えてください。そうして乗り越えた先にある甲子園の景色は最高です。今までの時間全てこのためにあったんだと思えるはずです。

(福井) 野球には色々な魅力があって、興味が尽きない。楽しいから、自分で考えて練習してきたので、やらされているとは思いませんでした。結果はついて回るものですが、あまり気にしないようにしてきました。あとは、ここまで野球を続けてこられているのは自分1人だけの力ではもちろんありません。親、監督、コーチなどの様々な方々のサポートがあって良い環境で野球をできていることを再確認し感謝の気持ちを忘れずにこれから先も全力で野球を続けてください。

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