高校野球200年構想けが予防
肩やひじを守るには小・中学生から
安全に長く野球を楽しむために
高校野球200年構想の主要事業の一つに、「けが予防」事業があります。選手たちがけがによって野球をあきらめることがないよう、地元の医師や理学療法士、トレーナーらと連携した肩、ひじ検診の実施や、けが予防、コンディショニングに関する講習会の開催を助成しています。
200年構想が始まった2018年からの4年間で、都道府県高野連が助成を受けて行った肩、ひじの検診は148回を数え、約2万人が受診しています。検診を実施したことのある都道府県連盟は26で、小・中学生も対象としたのは半数の13連盟です。また、講習会は69回開催され、計約8000人が参加しました。
ひじの障害は小学生、特に10~12歳が一番発症しやすいとされています。骨が成熟していないこの年代では、投げすぎによって野球ひじになりやすく、高校生になって受診した際に過去の病歴として判明することもあります。
このようなけがを未然に防ぐとともに、早期に発見、治療、リハビリをしていくためには、小・中学生段階での検診や指導者および保護者への啓発活動が重要だと考えます。そのため、高校野球200年構想の「けが予防」では、助成する検診や講習会を、小・中学生も対象としています。
選手たちが子どもの頃からけがの予防を意識するためには、各都道府県で医師や理学療法士、トレーナーらと野球関係者が連携して、コンディショニング、検診などに取り組む体制づくりが大切です。「Players First」を基本に、だれもが安全に長く野球を楽しめる環境を作ることが、高校野球200年構想が掲げる目標のひとつです。
「京都府医科学サポートチーム」の実践
2024年シーズンも残りわずかとなった11月24日、わかさスタジアム京都で「第74回冬季トレーニング講習会」が開かれました。高校野球200年構想の助成を受けて京都府高野連が主催した講習会には、加盟校76校から1、2年生部員3人ずつが参加しました。社会人野球の日本新薬野球部選手による実技指導に加え、けが予防のためのトレーニング指導や、投手71人を対象に肩やひじの検診も行いました。
検診では、ピッチング指導の合間に、肩やひじを手で触る検査や、ひじの超音波検査を実施して、医師が状態をチェックしました。医師のチェックで悪い所見が見つかった選手には、理学療法士が、それに対するコンディショニングを指導しました。さらに医療機関の受診を勧めるなど医療との橋渡しを行うほか、検診結果については、選手や保護者の同意を得た上で学校、連盟とも共有し、けが予防につなげています。
また、近年は、加盟校の協力を得て、全1、2年生を対象とした、ひじ、肩、腰、その他を含めた身体の痛みのアンケートを実施しました。1800人から得た回答を項目別にグラフにまとめて、今後の参考にしていきます。
地元の医療スタッフらとの連携
京都府高野連では、200年構想が設立される以前の2008年、地元の医師や看護師、理学療法士、トレーナーら医療スタッフとともに「京都府高校野球医科学サポートチーム」を発足させました。高校球児の野球による障害を予防していくためには、連携を密にしていく必要があるという問題意識からでした。
当初は、大会の医療サポートを行うだけでしたが、メンバーである医師の森原徹さんから、試合の時だけでいいのかという投げかけがありました。同年のオフシーズンから、検診やコンディショニング指導を行うようになり、今年で15回目を数えます。200年構想が始まった2018年からは毎年、高野連から「けが予防」の助成を受けています。
森原さんは、けが予防には以下の三つの段階があるとしています。
- ①選手、指導者、保護者へのコンディショニング指導、啓発活動
- ②肩やひじの可動域・痛みの誘発テストなどのメディカルチェック、ひじ関節の超音波検査
- ③病院での治療やリハビリ
なかでも、一つ目のコンディショニングを重視し、普段の練習のなかでけがをしにくい体をつくることが重要だと森原さんは話します。
講習会では、野球ひじなどスポーツ障害への知識とともに、ひじを押したり、ひねってみたり、投球フォームを確認したりするなど選手たち自身でチェックできる方法を伝えています。また、上半身・下半身の柔軟性を身につけるためのストレッチなどを実践し、さらに練習、試合後のクールダウンの意味や重要性についても指導しています。
医科学サポートチームは当初、有志のボランティアで始まりました。しかし、検診をボランティアだけに頼っていては広がりが出ないとして、2014年にNPO法人・京都運動器障害予防研究会を設立し、医療スタッフらが参加しやすい仕組みを作りました。また、体制強化のために医療スタッフ同士の勉強会を繰り返し開催しました。さらに、府北部では行政などの補助を受けながら、小・中学生を対象とした野球教室に合わせて受益者負担による検診を実施したりするなど、先進的な取り組みを続けています。
森原さんは「成長期の小・中学生時にできるだけ障害を抱えずに、高校生になることが重要。医療スタッフと各野球連盟との連携が強化され、小・中学生を含めたメディカルチェックのサポート体制が各都道府県連盟内にできれば」と話しています。